『106万円の壁』と『130万円の壁』①

 

 既に一カ月以上前の出来事ですが、9月25日、岸田総理が年収が一定額を超えるとパート労働者らの手取りが減る「年収の壁」問題について対策パッケージを決定すると明らかにしました。

 

 その後9月27日には全世代型社会保障構築本部(議長:内閣総理大臣)が開催され、同日付で「年収の壁・支援強化パッケージ」が決定されました。

 

 なんだか随分急いだ感じで「首相発表→パッケージ決定」となったため、社労士界隈でも「???」って感じで慌てて情報収集やクライアント先への情報提供をしていたような気がします。

 

 さて、今回はこの『106万円の壁』と『130万円の壁』について簡単に解説します。

 

1.『106万円の壁』

 実は106万円の壁は、時の流れに応じて壁にぶつかる(という表現があっているのか分かりませんが)対象が拡大されることになっています。

 

1-a(2024年9月30日まで)

 まずは来年の9月までのお話です。

 従業員数(正確には厚生年金の被保険者数(短時間労働者は含まない))が101人以上の企業で働く以下の人たちは、以下の条件に当てはまると社会保険加入の対象者となります(この人たちを「短時間労働者」と呼んでいます)。

①週の所定労働時間が20時間以上
②月額賃金が8万8000円以上
③雇用期間が2か月超の見込み
④学生でないこと

 ②を12か月分にすると「8.8万円×12カ月=105.6万円≒106万円」となるため、『106万円の壁』と呼ばれています。*1

 

 さて、これが何が壁かと言いますと、例えばAさん(年齢40歳以上)という方が、これまで従業員101人以上の東京都内の企業でパートとして週20時間以上働き、賃金を月87,000円受けていたとすると、一般的に手取りは87,826円となります(雇用保険料522円。所得税0円。雇用保険料は業種などにより異なる場合があります)。

 そのAさんが、もう少し稼ぎたくて今後は毎月92,000円稼ぐようになったとします。すると上記②の要件を満たすことになるので社会保険に加入することとなります。では手取りはどうなるかというと、なんと5,000円多く稼いだはずが、手取りは78,195円とこれまでより約1万円近くも少なくなってしまうのです(社会保険料13,253円、雇用保険料552円、所得税0円)。

 

 5,000円多く稼ぐために3~4時間程度パート時間を増やしたところ、手取りは1万円近く減ってしまう。

 Aさんの場合、社会保険に加入しなくて良かった87,000円の賃金時の手取りである87,826円を、社会保険に加入した上で頂こうとする場合、104,113円分働かなければならない計算になります。

 例えば時給1,300円だったとすると、(104,113-87,000)÷1,300=13.2時間パート時間を増やさなければ、元の手取りに追いつかないということです。

 

 これでは誰も頑張って働こうとは思いませんよね。

 

 これが『106万円の壁』と呼ばれるものです。労働者からすれば中途半端に働くとむしろ手取りが減る。よって就業を控えることになってしまう。

 国の立場からすると不足する労働力を埋めることが出来ないし、国の社会保険収入も増えない。こりゃいかん。ということで生まれたのが今回の『支援パッケージ』ということです。

 

1-a(2024年10月1日まで)

 

 さて一定規模の企業の場合に短時間労働者も社会保険の加入対象となるこの制度ですが、段階的に企業規模の対象が広がることになっています。

 その時期が来年10月以降であり、その企業規模は従業員数(正確には厚生年金の被保険者数(短時間労働者は含まない))が51人以上の企業となります。

 

 51人以上の規模の企業となると、かなり多くの中小企業や労働者が対象となることが予想されます。

 (国の立場からすれば)せっかく社会保険の対象を拡大する制度を導入したのに、多くの人が働き控えをしてしまっては元も子もありません。

 来年の対象拡大の前にも何かしらの手を打ちたかったのもあることでしょう。

 

 さて、長くなってしまったので『130万円の壁』や支援パッケージについては今後順を追って解説いたします。

 

 

 

 

*1:週20時間以上働くと(①)、高い確率で②の要件を満たすと考えます。
(例:時給1100円とすると、週20時間×4週=88,000円)