『マクロ経済スライド』とは?

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 参議院選挙が公示されて以降党首討論や新聞・テレビなどでもよく出てくる言葉が『マクロ経済スライド』ですね。

 

 この言葉、もちろん社会保険労務士には常識ですが、一般的にはあまり知られていないと思われ、聞いていても「???」な方も多いのではないでしょうか。

 

 そこで簡単にではありますが、今回はマクロ経済スライドについて解説いたします。

 

 

①そもそも日本の年金制度は、積立方式でなく賦課方式

 

 これは比較的多くの方がご存じなのではないでしょうか。

 

 年金制度の財政方式には、大きく積立方式と賦課方式があります。

 積立方式とは、自分が支払った保険料を積み立てて、将来自分自身で年金として受け取る仕組みです。

 一方賦課方式とは、その時代時代の現役世代から保険料を徴収し、高齢者に年金を支払う仕組みです。つまり現役世代全体でその時代の高齢者の生活を支えて行こうという「世代間扶養」の考えに基づいています。

 

 積立方式と賦課方式、どちらにも長所と短所がありますが、社会全体でその時代の高齢者を支えるという年金制度の趣旨や、インフレなどの経済状況の影響に対応しやすいといったメリットから賦課方式が選ばれていると考えていただければ良いかと思います。

 

②賦課方式は人口構造の変化などの影響を受けやすい

 

 単純に考えて、積立方式は自らが積み立てた保険料を受け取るだけですので、運用益の増減などの除けば保険料も将来の受給額もほぼ一定となります。ただし同じ100万円でも将来の価値は今とは違うかもしれず、実質的には目減りした額になるかもしれません。そこが積立方式の弱点とも言えます。

 

 一方で賦課方式は、今の現役世代が支払った保険料を今受け取るわけなので、その時代に合ったお金の価値で年金を支給することが出来ます。

 しかし、現役世代が高齢者世代を支える以上、何人の現役世代で何人の高齢者を支えるのかによってその負担感が異なるのは当然で、現在の日本で言うならば急激な少子高齢化の影響は免れません。

(1960年代には約11人の現役世代で一人の高齢者を、1980年代には約6~7人で一人を支えていた計算が、2010年以降は約2人の現役世代で一人の高齢者を支えている計算となります)

 

 しかしだからと言って年金支給額を固定したままそれに見合った保険料を定めていては、現役世代はたまったものではありません。

 

 そこで2004年に導入(開始年度は2005年)されたのが『マクロ経済スライド』という仕組みです。

 

③保険料水準固定とマクロ経済スライド

 

 まず2004年6月に成立した年金改革法では新たな負担の見直しの方法として、将来の負担(保険料)の上限を設定し固定する「保険料水準固定方式」が導入されることとなりました。

 

 これにより最終的な保険料(率)の水準が定められることになり(現在既に国民年金、厚生年金共に固定された保険料に到達しています)、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、将来の標準的な年金額が現役世代の50%を上回る水準を確保することとされました。

 そして賃金や物価の変動に応じて毎年年金額が自動的に改定することを原則としました。

 

 さらに、もう一つ考えられたのがマクロ経済スライドです。

 

 ご存知のように現在日本では少子高齢化の影響で、いわゆる現役世代がどんどん減るのと並行して高齢者はどんどん増えています(=平均寿命が毎年伸びています)。

 つまり上述のように賃金や物価の変動以外の外的影響を大きく受けているのです。これは現役世代で高齢世代を支えるという賦課制度による年金制度にとっては非常につらい。

 

 そこで編み出されたのがマクロ経済スライドということです。

 つまり、保険料を負担する現役世代の人口の減少と、給付の増加につながる平均余命の伸びを年金額の改定に反映させる仕組みです。

 

 具体的には、上述したように例えば賃金や物価が上昇すれば自動的に年金額も上昇するのですが、それを人口減少&平均寿命の延びから算出した調整率分減じてしまうのです。

 

 そうすることによって年金支給額を抑制しようとするわけです。

 

 ちなみに2019年は名目手取賃金変動率が0.6%でありましたが、マクロ経済スライドの調整率が0.5%であったため、結果的に年金額は0.1%の上昇改定に留まることとなりました。

 

 

 このようにして年金額を抑える仕組みの是非が今党首討論やテレビや新聞などで議論されているのです。

 

 

 個人的な見解は避けますが、年金制度自体は社会保障の根幹となる社会制度と思います。マクロ経済スライドなどの制度の是非もさることながら、大切な年金資産の管理を任せている国に対してもしっかりとした監視の目が必要でしょう。

 

 いずれにせよこれを機により多くの方が年金制度に関心を寄せ、自分だけの問題でなく、ここ(日本)に住む全ての人たち=自分たちの問題と捉えていただければと思います。