パートやアルバイトが突然辞めて連絡が取れなくなってしまう。というより連絡もなく欠勤し、その後来なくなる。少なくない事業場で経験があるのではないでしょうか。
私の学生時代のアルバイト先でもしょっちゅうありました。
数日だけ来て、その後音信不通。まあ、合わないと思ったんでしょうね。
さてその場合、例え一日でも働いたのであれば当然賃金が発生します。
しかし本人は音信不通。賃金の支払いはいったいどうすれば良いのでしょうか?
①賃金の支払いが現金による直接払いの場合
労働基準法では賃金を、通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定期日に支払わなければならないことになっています(賃金支払いの5原則)。
現金による直接払いをそのまま採用している事業場の場合、本人と連絡が取れず、本人も来ないわけですから、この5原則を守ることが出来ません。
では、使用者が辞めた従業員の住所まで赴いてまで支払わなければならないのでしょうか?
答えは「No」です。
賃金(債務)の支払い場所が従業員の住所であるとすれば、使用者はその都度従業員の住所地まで赴かなければならず、どう考えても社会通念や実情に会いません。
よって労働者に対する賃金の支払いは、いわゆる「持参債務」でなく、「取立債務」と解釈されています。
つまり、使用者が労働者の住所地に持参するのでなく、労働者が使用者のもとへ取立に行くべきと考えられているのです(ここで「取立」というと少し変な気もしますが、あまり気にしないでください)。
よって、使用者側としてはいつでも支払えるよう準備をして置き、そのまま金庫ででも保管しておけば賃金不払いの責任を問われることはありません。
また、例え本人から「振り込め」と何かしらの連絡が来たとしても、それに応じる必要はないでしょう。
②労働者の合意を得ることにより口座振り込みを採用している場合
先述の通り、賃金は現金による直接払いが原則ですが、労働者の合意を得ることにより口座振り込みによる支払いも可能です。
採用している事業場も多いことでしょう。
この場合で、既に労働者の合意を得ている場合(今まで振り込み続けていた場合)には、そのまま振り込むしかありません。
こういった場合に、例えば労働者が会社に与えた損害額などを控除して振り込むことは、全額払いの原則に反することとなり許されませんのでご注意ください。
(労働の対価としての賃金と、会社が受けた損害はそれぞれ別問題ということです)
③最後の一回の支払いを直接取りに来させられるか
何の連絡もなく突然音信不通になった従業員に対し、使用者として良い感情を持つことは難しいことでしょう。
直接顔を見て文句の一つも言いたいでしょうし、もしかしたら貸与していたユニフォームなどもあるかも知れません。そもそもそんな奴に給与を払いたくなくて、「給料欲しいなら直接取りに来い!!」と怒鳴りたくなる気持ちも分かります。
しかしこれも何の根拠もなく出来るものではありません。
②のように口座振り込みによる支払に合意していた場合、それを使用者が一方的に変えることは出来ないのです。むしろ『賃金不払い』で訴えられる可能性もあります。
③のような対応にしたい場合、あらかじめ就業規則や労働契約書にてその旨をしっかりと明記した上で、採用時点で労働者に正確に認識させることが最低限必要になると思われます。
以上、いざという時のためにご参考にしてください。
なお、労働者が賃金を請求することなく2年を経過した場合には、時効により賃金債権は消滅します(労働基準法第115条)。
①③の場合でも、最低2年間は給与保管しておくことが必要です。